オーダースーツは、個々の体型や嗜好に合わせて仕立てられる特別な衣服として、長い歴史と共に進化を遂げてきました。その背景には、ファッションのトレンドや社会の変化、技術の進歩などが深く関わっています。ここでは、オーダースーツの歴史を振り返り、その進化について詳しく探っていきます。
オーダースーツの起源
オーダースーツの起源は、17世紀のヨーロッパに遡ります。この時代、服飾は主に貴族や富裕層が注文するもので、テーラーと呼ばれる職人たちが個別に仕立てていました。特にイギリスでは、ビスポーク(bespoke)という言葉が生まれ、これは顧客の注文に応じて生地を選び、仕立てるという意味を持っています。ビスポークスーツは、顧客一人ひとりの寸法を計測し、その体型に完全にフィットするスーツを作るという、まさにオーダーメイドの始まりでした。
当時のスーツは、現代のものとは異なり、上半身はタイトで、ウエストが絞られたシルエットが特徴でした。また、装飾的な要素が強く、豪華な刺繍やボタン、ラペルなどが施されていました。ステータスや権力を示すための象徴的な要素であり、貴族や富裕層にとって欠かせないものでした。個々の注文に応じて仕立てられるスーツは、当時から「紳士の装い」としての地位を確立しました。
年代別オーダースーツの歴史
スーツの歴史は100年を超えました。100年前と今とでは、どのような違いがあるのでしょうか?それぞれの年代に沿ってスーツ文化における変化について見ていきましょう。
今回は、スーツの発祥の地イギリスに焦点を当て、歴史を振り返っていきます。
- 1940年代:戦時中の制約と実用性
1940年代は第二次世界大戦の影響で、ファッション業界も大きな制約を受けました。
生地の不足や生産制限により、スーツはシンプルで実用的なデザインが主流でした。男性用スーツは、無駄を省いたデザインで、シルエットはスリムに。ポケットやボタンなども制限され、機能性重視の作りでした。また、「ユーティリティスーツ」と呼ばれる、政府が定めた標準規格に従った衣服が導入され、限られた資源を効率的に使う努力がなされました。
- 1950年代:戦後の復興とクラシカルなスタイル
戦後の1950年代に入ると、イギリスのスーツは再び洗練され、クラシックなデザインが復活しました。広めのラペルと肩パッドが施されたスーツが人気を博し、ヴィクトリア朝時代の伝統的なスタイルに影響を受けたシルエットが見られました。また、3ピースから2ペースに入れ替わり、2ピースがスーツスタイルの基本として普及したのも1950年代からと言われています。
- 1960年代:モッズとピーコート
1960年代のイギリスでは、若者文化がファッションに大きな影響を与え、スーツにも変化が見られました。「モッズ」と呼ばれる若者たちが、体にフィットしたスリムなスーツを着こなし、ピークドラペルや細身のタイがトレンドになりました。
また、この時代には「ブリティッシュ・インヴェイジョン」と呼ばれる音楽のトレンドも重なり、ビートルズなどのバンドがスタイリッシュなスーツを着こなしていたことから、その影響も広がりました。
- 1970年代:フレアと派手なデザイン
1970年代に入ると、スーツのスタイルはより大胆で派手なものになりました。
ラペルがさらに広がり、パンツはフレア(裾が広がったデザイン)が流行しました。カラーは明るく、時には非常に派手なパターンや素材が使用され、全体的にリラックスした雰囲気が特徴でした。また、70年代にはディスコの影響もあり、光沢のある素材や大胆な色使いがスーツに取り入れられるようになりました。
- 1980年代:パワースーツの時代
1980年代は「パワースーツ」の時代とも言われます。この時代のスーツは、経済的成功やステータスを示すものとして、肩パッドが強調されたボクシーなシルエットが特徴でした。特に金融業界やビジネス界で働く男性たちにとって、パワースーツは自信と成功を象徴するアイテムとなり、ダブルブレストのスーツや高めのウエストラインがトレンドになりました。
- 1990年代:リラックスしたシルエット
1990年代に入ると、80年代の誇張されたシルエットに対する反動から、よりリラックスしたスーツのスタイルが登場しました。肩パッドやウエストの強調が控えめになり、全体的にカジュアルでシンプルなデザインが増えました。また、90年代はグランジやストリートファッションの影響も受け、スーツは必ずしもフォーマルな場だけでなく、日常的なスタイリングにも取り入れられるようになりました。
- 2000年代:モダンとクラシックの融合
2000年代には、クラシックなスタイルが復活しながらも、モダンなテイストが融合したスーツが流行しました。細身のシルエットが再び主流となり、フィット感を重視したスーツが人気となりました。素材も高品質なものが求められるようになり、テーラーメイドのスーツの需要が高まりました。
日本におけるスーツの歴史
日本におけるスーツの歴史は、明治時代以降の西洋文化の影響を受けて発展し、時代ごとに日本社会の変化とともに進化してきました。
- 明治時代:西洋文化の導入とスーツの普及
日本でスーツが初めて導入されたのは、明治維新(1868年)によって西洋文化が急速に広まった時期です。それまでの日本では和服が一般的でしたが、西洋式の服装が政府の要人や軍人を中心に採用され始めました。特に明治天皇が洋装を採用したことから、スーツが公式の場での服装として認知されるようになりました。この時期のスーツは、当初は軍服や官僚の制服としての側面が強く、一般庶民にはまだ普及していませんでした。
- 大正時代:都市化と洋装の一般化
大正時代に入ると、日本はさらに都市化が進み、洋装が都市部のビジネスパーソンや知識階級に普及しました。スーツは、特に商人や官僚、銀行員などの職業人にとって標準的な服装となり、洋装の文化が一般社会に広がっていきました。また、男性だけでなく、女性も洋装を取り入れ始め、スーツは次第に日本社会で定着していきました。
- 昭和初期:スーツの一般化と戦時中の制約
昭和初期には、日本でもスーツが一般的なビジネス服として広がりました。しかし、1930年代から始まった戦争の影響で、物資が不足し、洋服の生産や輸入が制限されました。その結果、服装にも制約が課され、シンプルで機能的なデザインが求められるようになりました。男性用スーツは、肩の張りが強調され、実用性重視のシルエットが特徴でした。
- 戦後昭和:復興と経済成長
戦後の日本では、アメリカの占領政策による影響もあり、スーツのスタイルにアメリカ文化が色濃く反映されました。1950年代には、日本経済が復興し、ビジネスマンを中心にスーツが標準的な服装となりました。1950年代から1960年代にかけて、日本は高度経済成長期を迎え、サラリーマン文化が形成されるとともに、スーツがビジネス界において不可欠なものとして定着しました。特に、黒やグレーのシンプルなスーツが主流となり、ビジネスマンの象徴的なスタイルとなりました。
- 1970年代・1980年代:ファッションの多様化とブランドブーム
1970年代に入ると、スーツのデザインにも多様性が生まれ始めました。特に1980年代のバブル景気時代には、ブランドブームが到来し、ビジネスエリートたちは高級ブランドのスーツを身に着けることがステータスシンボルとなりました。この時期のスーツは、ややワイドなシルエットで、肩パッドが強調され、アメリカやイタリアのファッションの影響が色濃く見られました。また、ネクタイやシャツといった小物にもこだわるスタイルが流行しました。
- 1990年代:バブルの崩壊とカジュアル化の兆し
1990年代には、日本はバブル経済の崩壊を経験し、経済的な状況が大きく変化しました。この時期、スーツのスタイルもよりシンプルで実用的なものへと変化しました。特に、ビジネスシーンでのドレスコードが少しずつ緩和され、「カジュアル・フライデー」(カジュアルな服装を許容する金曜日)などが導入され、スーツのカジュアル化が進みました。また、この時期から、従来の黒やグレーのスーツに加えて、青や茶色などのカラーバリエーションも増え、より個性的なファッションが楽しめるようになりました。
- 2000年代:モダン化
2000年代に入ると、スーツのデザインはさらに洗練され、細身のシルエットが主流となりました。特に、ヨーロッパの影響を受けたタイトフィットのスーツが人気となり、ビジネスマンの間でも流行しました。また、ファッションブランドによるオーダーメイドスーツや、ユニクロなどのカジュアルブランドによる手頃な価格のスーツも登場し、スーツの選択肢が広がりました。この時代、スーツはもはやビジネスシーンだけでなく、プライベートでもおしゃれとして着こなすアイテムとなりました。
- 2010年代:機能性の充実
2010年代以降、日本ではスーツのカジュアル化がさらに進み、ビジネスシーンにおいても柔軟な服装が許容されるようになってきました。「ビジネスカジュアル」が広く受け入れられ、ノーネクタイやジャケットなしのスタイルも増えてきました。また、機能性を重視した「ストレッチスーツ」や「ウォッシャブルスーツ」など、利便性の高いスーツが登場し、着心地の良さやメンテナンスの容易さが求められるようになりました。
- 2020年代:テレワークの普及と新しいスーツのあり方
2020年代に入ると、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、テレワークが普及し、ビジネスファッションのあり方も変わりました。自宅での仕事が増えたことで、よりリラックスした服装が求められる一方で、オンライン会議などではスーツを着用する場面もあるため、上半身だけがフォーマルな「テレワークスーツ」なども登場しました。また、環境意識の高まりから、サステナブル素材を使用したスーツやエシカルファッションが注目されるようになりました。
日本におけるスーツの歴史は、西洋文化の影響を受けつつも、日本独自の文化や社会的背景に合わせて変化し続けてきました。現在でも、時代のニーズに合わせた多様なスーツのスタイルが登場し続けています。
DAVID LAYERでは、生地約15,000種類・裏地約1,000種類・ボタン約1,000種類の中から、お客様のお好みに合わせてカスタマイズが可能です。
採寸は0.5cm刻みできめ細かく行い、お客様の体型を隅々まで測定し、身体のクセや特徴を補正できるスーツを制作します。晴れの日の一着からビジネススーツまで、いろんなシーンに合わせたコーディネートをご提案いたします。
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